むかしむかし セルフライナーノーツ

 2020年3月、バンドを始める予定だったのが色々あって1年間できなくなってしまい、そこからの一年間僕はひたすらに曲を作り続けました(全部で25曲くらい)。4月とかは毎日作って毎日宅録して軽くミックスしてちゃんと音源にまでするというストイックさ。そんな期間でできたのがこの「むかしむかし」という曲です。

 

 その当時どんなことを思ってこの歌詞を書いたかは正直あまり覚えていないです。やりたいことが全部潰れて、新しい出会いなんかもなく、今思い出してもここ数年で最悪の期間だったなと思っています。“昔を想った君の負けだな”といった歌詞を見ると、何もできなかった自分が過去の幸せだったころを思い出して、それを後悔している描写のような気がする。今はそんなこと思ってないです。楽しかったことも苦しかったこともいくらでも思い出すべきだし、そこから元気をもらったり反省したりできるのが人間だと思うので。

 

 いずれ苦しい時期はまた来る。この曲を聞いてくださってくれている人にも来るだろうし、今がその時期かもしれない。そんなときは何も考えずスマホにある過去の楽しかった写真なんかを眺めて、思い出に浸ってください。決して悪いことでも後悔するようなことじゃない。今楽しいと思えていることが将来の自分を救います。これ、本当。

 

 曲は意図的にシンプルにしています。余計なメロ、構成、音は入れずにとにかく歌の良さを前面に出している。その裏で本構成にまとわりつくようなベースラインは芸術だと思ってます。

 

(2021年10月作成、そこから一部修正)

エブリナイトモーニング セルフライナーノーツ

 このEPの中で、唯一ライブでたくさんやってきた「エブリナイトモーニング」。5月の”Urban life”リリース以降にできた曲で、また自分らが新しいフェイズを見つけたような気がした思い入れのある曲です。

 

 どこかのライブで言ったような気はするけど、梅雨の歌です。朝起きたときの湿気も気温も高いあの嫌な感じとか、そのせいで見たよくわからない夢とか、太陽が雲に隠れているから学校の教室も少し暗くて白熱灯が悪目立ちしているあの感じとか。そこらへんを全部ひっくるめて曲にしました。6月は夏に入りかけてる季節なのに何の特別感もなくて、雨は降っていて、何もないから少し早く感じて、一日一日が流れるように過ぎていく、そんな1ヶ月だなあと思っています。せっかく夢で会えた好きな子に対しても素直になれないし。そんな自堕落で流れるようにただ一日を、ただ朝と夜を繰り返すだけの6月を思って、僕はこの曲に「エブリナイトモーニング」という曲名を付けました。

 

 ギターのサウンドとして、1曲を通してモジュレーションディレイとコーラスを重ねてます。これも自宅で色んな音作りの実験をしていた時に見つけた音で、なんていうか新しい機材を買わなくても、既存の機材の中でセッティング変えたり順番変えたりしてみるのも面白いなあと改めて感じることができました。もちろん新しい機材は永遠に欲しいです、誰か助けて下さい。

 

(2021年10月作成、そこから一部修正)

Old living セルフライナーノーツ

 曲の原型は2020年の4月からありました。元々違うアーティストとコラボするために作った曲だったのですがその話も流れてしまい、僕個人はすごく気に入っているメロと歌詞だったので採用、音源化決定。

 

 端的に言えば春の歌です。ちょうど2020年4月、家から全く外に出ない時期、桜を全く見ないまま終わる春、そんな中で作った曲です。朝に早起きする予定もないから、アラームをかけたはずなのに気づかないまま寝過ごすし、食べるはずの朝ごはんもいつの間にか食べないのが普通になっていくし。出会いの季節、普通であれば美しい生活が待っているはずなんだけど、実際始まったのはちょっとヘンテコな生活、そんなような歌です。

 

 歌詞の中にもありますが、音楽なんてものは生活の彩りになるくらいが一番ちょうどいいんだろうなあと思います。決して憑りつかれてはいけないもの。それが全てになってもいいのかもしれないけど、そこから一歩引いて音楽と接してあげた方が人生は一番豊かになるんじゃないかと僕はずっと思っています。僕は一歩引くことができなかったので。

 

 レコーディングに当たって、どうせならポップにかわいい曲調に振り切ってやろうと思い立ち、知り合いの中で一番良いキーボードを弾く奴と一番いい声してる奴にサポートの連絡をしました。急な連絡だったのに快く引き受けてくれてすごく感謝しています。「こういう曲、みんな好きやろ! しめしめ。」と思いながらRecしてました。してやったり。

 

(2021年10月作成、原文ママ

暮れる セルフライナーノーツ

 このEPはそもそも4曲収録の予定でしたが、僕が、「せっかくフィジカルも作るならどうしてもボーナストラックを作りたい!」というわがままをメンバーに押し通して5曲録ることを決めました。が、自分で言ったはいいものの、録るための曲はありませんでした。自分勝手、勢い、プレバトに“計画性部門”があったら才能ナシ。レコーディングまで一週間、焦る時間ももったいなく5曲目を作り始めました。そしてできた曲が「暮れる」です。本来はフィジカル限定収録のボーナストラックになる予定でしたが、曲の出来とメンバーの反応が想像以上によかったため、通常の収録にし、「むかしむかし」をボーナストラックにしました。

 

 ギターのアルペジオフレーズから着想を得てこの曲を作り始めました。いつか使いたいなあと思っていたフレーズ(ほぼ手癖)だったのでいい形で昇華させることができて満足です。ギターの歪みの若干のつぶれ具合とスリーピースバンド感、“もういいよ どうでもいいよ”のところをボーカルとベースラインで同じメロをなぞる、このあたりが意識したポイント。

 

 ドラムとベースも自分が作ったデモの段階からはかなり飛躍していて、良い味を出しているなあと感じます。本当なら、スタジオに何時間もこもってメンバーとあれやこれや言いながら曲作りを進めてみたいものですが、スケジュールとお金にそんな余裕はないため基本的にはそれができません。そんな短いスタジオの中で、メンバーがかっこいいアレンジをすっと提供してくれて曲自体が成長する瞬間、この瞬間こそがバンドの醍醐味であると思います。宅録や打ち込みが容易になった時代の中で、コストと時間をかけてわざわざバンドをやっているのは、定期的にこういう瞬間が訪れるからです。

 

 歌詞のテーマは“諦念”。1曲目と同様にコロナもあり、かつRecまでの期限もあり、あまり良い精神状態で作られた曲ではなかったです。明るくない歌詞にしようとは思っていました。

“生きづらさを吐露するだけの阿呆に前を行かれたくはないな”、矢﨑お気に入りです。多くは語らんですが、“もうこんな世界なんて。“と言って共感を得るのなんて簡単なのです。大事なのはそこじゃない。

 

(2021年10月作成、原文ママ

言いたいことしかなかった セルフライナーノーツ

 僕が愛するバンドの一つに“ベランダ”というバンドがいるのですが、ここからの曲解説を読む前に是非ベランダの「その目で」という曲を聞いてほしいです。冒頭の素晴らしいイントロからの歌い出し、どう聞こえましたか?僕は“言いたいことしかなかった”と聞こえ、初めて聞いたときに衝撃を受けました。言いたいことはない、言えない、といった表現はよく見られますが、逆に“言いたいことしかなかった”と表現するアーティストがいるのか、と。サブスクには歌詞が登録されていなかったのですがそう歌っているものだと思っていました。しかし、先日CDを購入し、歌詞カードを開いてみたら“聞いたことしかなかった”が正解だったと…。この瞬間、僕はこの言語表現を自分のものとし、「言いたいことしかなかった」という楽曲を作ることを決めました…。

 

 僕個人の話になってしまうのですが、実は8月半ばから9月頭までに例の流行り病にかかっていまして、症状も軽くなく割と辛い夏を送っていました。その中で作った曲がこの曲です。ホテル療養中にベッドで寝ころびながら、終わらないこの情勢と会いたい人に会えないもどかしさとを憂いて歌詞を書きました。10月現在は2か月前の情勢が嘘のようになっていますが、当時の自分は割と色々なことに絶望し、諦めの気持ちを持っていたように思えます。まだこの先もどうなっていくかは分からないけど、この時の最底辺の気持ちを忘れずにいたいなと思います。“全長19kmのトンネル”はまんまCOVID-19のこと。

 

 コード進行がちょっと良くわからないです、作曲者の癖に。多分キーとかあんまり意識してないし、音楽理論的にもよくある進行ではないと思います。イントロは、ルート音を半音ずつ上がるくだりを3回繰り返しててよく聞くと気持ち悪い。ボーカルは浮遊感を出したかったので、同じ音程とオクターブ下で声を重ねたりしました。サビはとにかくリフレイン、聞いている人の頭に残るように。言いたいことしかなかった~♪

 

(2021年10月作成、原文ママ

plot セルフライナーノーツ

 この曲を作ったのはもう2年半も前のことになると思います。当時17歳高校3年生の春、受験勉強に追われ始めたころでした。いつも勉強している図書館の自習室でふとplotのコードとメロディが浮かんで、これは勉強している場合じゃないと思って急いで家に帰りスマホのボイスメモに録音したのを覚えています。あの時の行動は正解だった!偉いぞ俺!

 

 当時をふと回帰してみると、僕も17歳なりに色々悩みながら生きていたんだなと思います。元々は地方の大学を受けてそこに進学しようと思ったり、でも自分は高校卒業したらちゃんとバンドをやりたいからそのために関東に残ろうかなとも思ったり、毎日10時間くらい勉強してるけどこれに果たして意味はあるのかと思ったり、そもそも自分の進路はそう簡単に決まるのかなとも思ったり。その10代特有のもやもやとした気持ちが歌詞にどことなく表れてるんだなあと今聴いても思います。今の自分には出せないし、無理にその時のことを思い出すのも違う。そういう意味でこの曲はもう今の自分の考えとは少し違うけど、ライブではやり続けたい。曲と一緒に上手く年を取っていきたいなあと最近より強く感じます。

 

 この曲の解釈、正直聞いてくださる方々一人一人で違ってよい、むしろ楽曲なんてそんなものだと思っています。アーティストが“A”と歌ってリスナーが“A”と感じることは至極簡単なことだけど、僕は“A”のうちの一画目しか歌いたくない。それをリスナーには“A”とか“B”とか“一”とか感じ取ってほしい。創作者のエゴかもしれませんがそれが理想です。

 しかし、この場ではせっかくだから自分がどんなテーマで「plot」を書いたのか伝えたいなと思っています。先ほども述べた通り、元々地方に行く可能性もあったのも関係して、“故郷を離れて独り立ちする青年”をテーマにしています。もっと具体性を増すのであれば、その移動中の列車。サビの歌詞はまさにその情景です。“残る街の香り 急ぐ、思い同化しないように もう遠く見てるからさ心配しないでよ”―街を出発したばかりの列車の車窓からはまだ故郷があって、早く移動して忘れないと自分の気持ちが故郷に同化してしまってもっと辛くなってしまう。“故郷の回帰”、“故郷への未練”、“新しい地への不安”を落とし込みました。ぜひこの曲はそうやって自立しかけながらも色々と悩んでいる後輩たちに聞いてほしい。俺もまだまだ未熟だけど、完全な大人になれたときに誰かを励ますために歌いたい。その時が来るまでバンドを続けていたいです。

 

 ちなみに、plotをUrban lifeに収録することになり、拍子が変わるセクションを追加しました(もともとはなかった)。歌詞で言うと“幻想が層になる 夕景は旅に出る”のところです。この曲を弾き語りからバンドアレンジに起こしたときにあまりにも構成が単調だなと感じて挟み込みました。いい味になってると思います。

 

 つらつらと説明をしましたが、最後にもう一度。曲の解釈は聞く人一人一人が違って良い、ここに書いてあることが必ずしも全てじゃないです。色んな情景を浮かべながらこれからもこの曲を愛していただきたい。作曲者にとってそれほどまでの幸福はないです。

 

(2021年10月作成、原文ママ

WARM NIGHT セルフライナーノーツ

「KK210」と同様、Baのクワエがオケを作成して僕が歌詞と歌メロを作りました。マリースメックは基本的に2つの作曲スタイルを使い分けています。“矢﨑作詞曲、バンド皆でアレンジ”“クワエ作曲、矢﨑作詞”。理由は単純で、クワエが僕にない発想の曲を作ってくれるから。僕は自分に飛び出た音楽的才能があるとは思っていないので、メンバーが作ってくる曲は非常に刺激的であり、かつ聞いてくださる方のことのことも飽きさせないのかなあと思います。

 

“ビルの夜景” “暖色系”この2つがクワエから与えられたテーマでした。僕がイメージしようと思ったのは毎日の仕事に疲れているOLです。日中は仕事に追われ大変ではあるけども夜は都市に出て遊んですべてを忘れる。少しくらいハメを外しても明日の朝には会社員は出勤して、学生は登校して、都市は何もなかったように朝を迎えるわけで。まあそういう良いのか悪いのかはわからないようなことを題材にして完全フィクションで一曲書いてみたということです。メロも自分からはあり得ないくらいキャッチーにしました。

ライブでは最近やってないけれど、やるとみんな笑顔になってくれるのでこちらも嬉しいのです。みんな好きでしょこの曲。歌詞にもあるけれども、生活で起きた嫌なことは全部地球じゃない全然違う星の出来事にしちゃおう!人生そのくらいでいいよ!

 

(2021年10月作成、原文ママ